明日に繋ぐ

常務理事 高林成敏

 

 世の中は2年、3年では気付かないことでも、20年、30 年の時間軸の中で見れば、そこには大きく変化が見られます。戦後次々隆盛を極めた繊維、鉄鋼・造船業、これを支えた金融業、世界に敵なしと思われた家電産業など、誰もがその名を知っていた多くの有名企業も、いつの間にか消滅していたり、名を残しても事業内容を大きく変えたりしています。

 健康保険制度の拡大、充実により、爆発的に増加した医療需要を満たすため、昭和30年代から診療所を含め医療施設は急激にその数を増し、病院事業だけでも最盛期にはその数1万を超えていました。それが今や8,600 ほどに数を減らし、その3分の2の余りが社団の医療法人です。

 当法人は昭和36 年に個人病院として創業し、その後に法人に改組し事業を継続してきました。当時は医療法人となるのは承認条件が厳しく法人病院は少数派でした。これが、今や1人でも医療法人の承認を容易に得られ、個人経営の診療所の多くも医療法人となっています。

 事業継続を目的に法人化した社団の医療法人は、税制上の制約により事業を継続する際に極めて困難な状況に直面します。もともと個人が自己資金をもとに始めた事業であるため、法人制度に切り替える時点でこの資産部分を出資金としました。ところが医療事業は社会性の高い事業であるとして一般の事業と異なり出資金に対する配当は禁止されています。事業の維持、発展のためには適切な利潤を得ることは必須条件で、この利潤は設備投資や事業拡充のため先行投資に使われます。この資産増加分が税務上では出資者の個人資産の増加とみられ事業承継時に所得として課税されます。

 このような医療法人制度にあっては将来事業承継する時、これと矛盾する税制により事業そのものが立ち行かなくというリスクを負っています。この解決策として、平成19 年の第5 次医療法改正で、以後開設承認を得る医療法人は出資持分無しとしました。

 しかし、それ以前に開設され、出資金を開設承認要件として設立された現存5,700 余の医療法人の大部分はこの新制度の対象外です。事業承継時の資産移転課税リスクを避けられる唯一の方法は、特定医療法人又は社会医療法人として厚生労働省、国税庁の承認を得ることです。

 当法人は特定医療法人の承認を得て、事業継続を妨げている障害の一つは乗り越えることが出来たのですが、厳しく変化する経営環境の中で、事業を維持出来る収益を確保して行くという、もう一つの要件も満たさねばなりません。

 医療事業はこれまでは強固な法律に保護さた規制事業です。しかし毎年1兆円もの財政負担増を招く超高齢化社会では現状の福祉・医療制度を変えてゆく必要があると国は考えています。

将来の展望に意を払い、社会が求めるものを提供できる態勢を整えてゆくことが医療事業においてもますます求められて来ていると思う次第です。 将来の展望に意を払い、社会が求めるものを提供できる態勢を整えてゆくことが医療事業においてもますます求められて来ていると思う次第です。

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